「プルートゥ」

2018/1/8月祝 18:00~ シアターコクーン

原作:『PLUTO』(浦沢直樹×手塚治虫 長崎尚志プロデュース 監修/手塚眞 協力/手塚プロダクション) 
演出・振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ 
上演台本:谷賢一 
映像・装置:上田大樹 
音楽:吉井盛悟、オルガ・ヴォイチェホヴスカ 
キャラクタービジュアル・コスチュームデザイン・ヘアメイクデザイン:柘植伊佐夫 
出演 
アトム:森山未來ウラン/ヘレナ:土屋太鳳、ゲジヒト:大東駿介お茶の水博士:吉見一豊、アブラー:吹越満天馬博士:柄本明 
ダンサー:上月一臣、大植真太郎、池島優、大宮大奨、渋谷亘宏、AYUMI、湯浅永麻、森井淳、笹本龍史 
 
人間とロボットが共存する近未来。高性能ロボットが次々と破壊される事件が起こる。ユーロポールのロボット刑事、ゲジヒトは犯人の標的が、自身を含めた7体の世界最高水準ロボットだと確信。日本に渡り、限りなく人間に近い存在であるロボット、アトムと共に謎を追うことに。内戦で家族を失った科学者アブラー、人間を殺害した唯一のロボット、ブラウ1589との接触により核心に迫っていく。 

日本で上演されたシェルカウイ作品では、「アポクリフ」と「TeZukA」がとても好き。いずれもダンス作品だが、この「プルートゥ」は演劇作品。だから単純に比較するのは違うのかもしれないが、2015年の初演時は、粗筋をそのまま舞台化したようで、ちょっと期待外れだった。入り組んだストーリーの復習のため原作漫画を読み込んで臨んだのも悪かったかもしれない。漫画から広がるイメージに比べ、プルートゥというロボットを造形として実際に舞台に出したのがちゃちく見えたし、シェルカウイらしい「こう来たか!」な驚きが少ないように思えて。。。それでも2回観たのですが。。。

今回、再演すると聞き一瞬迷ったが、シェルカウイ作品は一度は観ると決めているので、発売初日にチケットを購入。わりとニュートラルな気持ちで臨んだら、これが大変面白かった!

1)ほどよく原作のディテールを忘れていた

2)ダンサーの出番が増えて見応えアップ

3)今回の新キャスト、大東駿介、土屋太鳳、吹越満が役柄に合っていた

主に上記3点が「面白い!」と感じた主な理由だと思う。

パンフレットにも「世界最高水準9ダンサー」とあったが、まさにその通り。これだけのメンバーを揃え、ダンスシーンが少し増えただけで、こんなにふくらみが出るのか。湯浅永麻さんには台詞もあり(花屋の女性)、あれ?この役、初演のとき喋ったっけ?と思っていたら、やはり初演時はナレーションで進んでいったシーンだったのだ。

吹越満のアブラーがいいのは予想通りだったが、大東俊介のゲジヒトも押さえた演技で好印象。初演時、永作博美が演じたウラン/ヘレナ、土屋太鳳ちゃんには荷が重い?と心配していたのだが、ウランではその若さと身体能力がまさにぴったりだし、ヘレナのときは声のトーンも低めで見事に大人っぽくなっている。ウランはキレのいいコンテンポラリーダンスを見せてくれ、日本女子体育大学舞踊学専攻のキャリアが充分に生きている。

漫画の枠線を活かしたセットはそのまま。ダンサーたちが7枚のプレートを移動させて様々な舞台装置に組み合わせていくアイディアも相変わらず面白い(パンフによると初演時で53变化!)ロボット役には3人のダンサーがマニピュレイターとして寄り添い、その動きを操っているように見せるが、これ、タイミングを合わせていくのは本当に大変だと思う。

ゲシヒトの死のあと、妻のヘレナが天馬博士に促され、最初は泣く真似を、やがてそれが本当の感情となって涙が出て来るシーンが感動的(初演でもここでもらい泣きした)。泣いているヘレナからはマニュピュレイターがいなくなっているが、これは彼女が人になったということ? ストーリー自体のテーマは「憎しみの連鎖をいかに断つか」だが、個人的には「人であることの定義ってなんだろう」というほうが、AIがリアルになってきた今だからこそ気になっている。