蜷川幸雄三回忌追悼公演『ムサシ』

2018/03/06水 18:30開演 彩の国さいたま芸術劇場大ホール

作:井上ひさし吉川英治宮本武蔵」より)
演出:蜷川幸雄
音楽:宮川彬良
美術:中越
照明:勝柴次朗
衣裳:小峰リリー 
殺陣:國井正廣・栗原直樹
振付:広崎うらん・花柳寿楽
能指導:本田芳樹 狂言指導:野村萬斎

出演
宮本武蔵藤原竜也佐々木小次郎溝端淳平、筆屋乙女:鈴木 杏、沢庵宗彭六平直政柳生宗矩吉田鋼太郎、木屋まい:白石加代子、平心:大石継太、忠助:塚本幸男、浅川甚兵衛:飯田邦博、浅川官兵衛:堀 文明、只野有膳:井面猛志

初演は2009年3月、さいたま芸術劇場にて。その後、ロンドン、NY、シンガポール、ソウルと海外公演を重ね、久々に初演の劇場に戻ってきた。2016年に亡くなった蜷川幸雄さんの三回忌追悼公演と銘打たれている。

巌流島の決闘から6年、鎌倉の小さな禅寺の寺開きに集った沢庵宗彭柳生宗矩、木屋まい、筆屋乙女、宮本武蔵。そこに佐々木小次郎が現れ、武蔵に3日後の果たし合いを求めるが--

舞台は巌流島の決闘のシーンから始まる。奥は海。上手に真っ赤に輝く夕陽。それを背にした武蔵が小次郎を一撃で倒し、立ち会いの細川藩の者に「お手当を!」と叫ぶところで暗転。舞台奥、暗闇の中から何人もの黒衣によって竹が押し出されてくる。7~8mはあろうかという竹を数本ずつ横一列に立てた台車のようなものを黒衣が動かすのだが、奥から舞台面にまっすぐ動いてきたかと思うと左右に分かれ、また奥に戻っていったりと様々に動き、観客側が山深くへ分け入っていくような錯覚を起こさせる。やがて竹林の奥から寺の建物が現れ、武蔵たちが座禅を組んでいる、という趣向。寺は能舞台かと思わせるようなシンプルなつくり。そこで沢庵、宗矩、まい、乙女、武蔵が座禅を組んでいる。かなり舞台面近くにセットが置かれているので、俳優たちの表情がよく見える。舞台袖の壁にはシーン名と日にち、時間、場所が示され、始めて観る人にも時系列がわかりやすくなっている。

武蔵に果たし状を突きつけ、武蔵が逃げないよう、ずるをしないよう見張るという小次郎。殺し合いを止めようとする沢庵、宗矩、まい、乙女。そこに乙女の父の敵が現れ、乙女は敵討ちを決意。武蔵に必殺の秘策を求める。それが功を奏し、乙女は敵に大怪我を負わせるが、その悲惨さに敵を討つという考えを放棄する。そこに小次郎の出生の秘密が絡み、最後は武蔵、小次郎以外の、そこに居合わせた全員が現世に思いを残して死んだ人々の幽霊だったというオチ。自らの無駄な死を悔い、武蔵と小次郎の決闘を止め、ふたりが命を大切にしてくれれば自分たちも成仏できると説く。朝、決闘を放棄したふたりのところに、ホンモノの沢庵、宗矩らが登場し幕府への士官を薦めるが、ふたりは制止を振り切り別々の道を去って行く。2本の通路がちょうど両花道みたいで面白かった。

役者で目立ったのは、予想通り白石加代子さん。もうオンステージ!表情、台詞回し、身のこなしすべてが一段上に感じられる。藤原竜也さんはちょっと声がくぐもっていたような。台詞がところどころ聞き取れなかった。この役を初演からずっとやっているので、きっとそういう役作りなのかな。そして吉田鋼太郎柳生宗矩のはずなのになんだか貫禄がないなー、と思っていたら、そうですか、別人の幽霊だったのですか。そして最後、ホンモノの柳生宗矩として登場してきたときはさすがの貫禄で、その変化が役者としての力を実感させてくれた。

作品を通じてのテーマは「恨みの連鎖を断つ」「殺すな、殺されるな」「生きろ」。2009年初演時より、難民、格差社会など問題が深刻化しているいま、このテーマが身につまされる。