東京シティ・バレエ団創立50周年記念公演 『白鳥の湖』〜大いなる愛の讃歌〜

2018/03/06火 18:30開演 東京文化会館大ホール

音楽:P.I.チャイコフスキー
演出・振付:石田種生(プティパ・イワノフ版による)
指揮:大野和士東京都交響楽団・音楽監督)
美術:藤田嗣治
芸術監督:安達悦子
演出(再演):金井利久
管弦楽東京都交響楽団

出演
オデット/オディール:ヤーナ・サレンコ(ベルリン国立バレエ団プリンシパル
ジークフリード王子:ディヌ・タマズラカル(ベルリン国立バレエ団プリンシパル
ロートバルト:李悦、道化:玉浦誠
パ・ド・トロワ:佐合萌香・飯塚絵莉・沖田貴士
三羽の白鳥:清水愛恵・平田沙織・植田穂乃香
四羽の白鳥:名越真夕・松本佳織・飯塚絵莉・新里茉利絵
ほか 東京シティ・バレエ団 

上演時間2時間30分(休憩20分含む)

当初、パリ・オペラ座バレエのミリアム・ウルドブラームがキャスティングされていたので、発売初日に勇んで取ったS席は、センターブロックの8列目という特等席。9列以降はサポーターズクラブ席だったそうなので、一般に入手できる中では最も条件のいいカテゴリーだったと思う。なのに、ミリアム降板、代わりにヤーナ・サレンコが出演。。。それなら、大野さんの指揮と都響の演奏を堪能するため、3階最前列あたりを狙ったのに、と後悔しつつ文化会館へ。

結論から言うと、面白かった! とにかく音楽が素晴らしい!

大野さんの指揮はメリハリがきいてテンポがよく、ヤーナ・サレンコでさえ音楽に遅れないよう真剣に踊っているな、という印象。シティ・バレエのダンサーたちは大変だったろうけれど、大野さんのテンポに食らいついていた。その努力のせいか、音楽がダンサーたちをひとつ上の世界に連れて行ってくれている感じがした。都響の演奏も素晴らしく、弦は通常の人数の倍、ピットに入っているんじゃないか、というくらい豊かな響き。管も細かな音の動きを正確に、気持ちよく伝えてくれ、あ、ここにはこんな音があったのか、と気付かされること度々。石田版では4幕に、バランシンの「チャイコフスキー・パドドゥ」で使われている曲を挿入し、オデットと王子に踊らせているのだが、大野×都響でこの音楽を聴けるというレアな経験もさせてもらえた。オケを聴くには前すぎる8列目も、大野さんの後ろ頭と指揮棒、雄弁な左手がよく見えて楽しい。ときに、舞台よりも大野さんのほうを見てしまうくらい。またぜひ、このクオリティの演奏でバレエが観たい。来シーズンより大野さんが新国立オペラの芸術監督に就任なので、新国立バレエでの実現を期待!

今回の目玉はもうひとつ、藤田嗣治が手がけた舞台美術の模写を元にしたセット。パリ留学時代にバレエもよく観ていた藤田は、「白鳥の湖」の日本における全幕初演(昭和21年=1946年、帝国劇場)で、美術を手がけている。藤田の原画そのものは散逸したが、演出家の故・佐野勝也氏が、当時の美術スタッフによる模写を発見。それがシティ・バレエの芸術監督・安達悦子さんの目にとまったそう。

パリでキュビズムシュールレアリスムなど最先端の美術に触れていた藤田だが、今回の白鳥の舞台美術はオーソドックス。1幕目、王子の誕生日を皆で祝うシーンのバックに崩れた遺跡のような建物が描かれていたり、3幕の舞踏会でも下手にそそり立つような階段を描き不安感をあおったりと、ロマン主義的かな。4幕、ロットバルトが滅び白鳥たちが人間の姿に戻るエンディング、谷の奥から朝日が昇るのだが、紗幕を上手く使って朝靄の雰囲気を出していた。

ダンサーでは、ヤーナ・サレンコのプロ魂を実感。彼女の全幕を観るのはこれが初めてだったかも(ガラ公演では常連さんなのに)。テクニックのある人だとは思っていたが、体力もあった。白鳥は情緒に欠けるように感じられたが(まあ、曲のテンポも速かったし)、黒鳥はめざましかった。グランフェッテはダブルとトリプルを最後まで入れ、しかも音符の細かさに合わせてダブルとトリプルを使い分けていたように見えた。ディヌ・タマズラカルは庶民的で、気の優しい王子様。舞踏会でオディールと踊るところでは、もう彼女のことが好きすぎて乙女のような表情を浮かべていたのが印象的。ここまで感情を顕わにする王子って珍しいかも。踊りそのものは正確なテクニックとやわらかな着地で、優秀なクラシックダンサー。シティ・バレエ団員では、パ・ド・トロワとナポリを踊った佐合さんが目立って上手かったように思う。形もきれいだし、何より軽やか。

石田版の振付で一番印象に残ったのが、4幕の白鳥たちの使い方。フォーメーションも工夫があって面白いのだが、なんというか、強い! みんなで一斉攻撃すれば、ロットバルトも倒せちゃうんじゃないの?というくらい。王子はあまり戦わず(剣も持ってないし)、最後の最後でロットバルトの片羽根をもいで、エンド、なのだが、そんなとってつけたような終わり方ではなく、白鳥たちがオデットと王子を守ってロットバルトを倒すほうがよっぽど説得力がある気が。。。

大野さんと都響が出演することになったのも、安達さんと大野さんが小学校の同級生だったからという。安達さんのプロデュース力が光る公演だった。