カラス・アパラタス 特別公演

2018/03/03土 20:00開演 カラス・アパラタス/B2ホール

出演・演出・照明:勅使川原三郎

出演:佐東利穂子

上演時間:約60分+アフタートーク

もしかすると半年ぶりくらいのカラス・アパラタスでの公演鑑賞。勅使川原さんの公演そのものは、昨年12月シアターカイで「イリュミナシオンランボーの瞬き-」を観て以来だが、やはりアパラタスで観るのは格別だと思う。荻窪駅からほど近いここは、1階ホワイエとB1のギャラリー、B2のスタジオ兼ホールすべてに勅使川原さんの思いがこもったスペース。いつもアロマが焚かれ、手入れが行き届いていて気持ちいい。開演30分前くらいに着いたら、週末のせいか珍しく行列ができていた。

アパラタスの魅力は闇の濃さ。通常の劇場とは違い、客入れのときから照明をできる限り落としてある。客電が完全に落ちると、息苦しくなるくらいの闇に包まれる。初めてこの闇を経験したときは、一瞬逃げ出したくなった(閉所恐怖症気味なので)。とろりとした闇の中、計算し尽くされたライティングとダンサーの動きが別世界を作り出す。

通常のアップデイトダンスは8日間の公演だが、今回は勅使川原さんの海外公演の間を縫っての短期間の帰国とあって、3月2日・3日の2日間のみの特別公演となった。

濃い闇の中、ステージ奥と上手の2辺のみに細く照明があてられていく。見える見えないのぎりぎりのほの暗さのうち、奥には佐東さん、上手には勅使川原さんがそれぞれ壁に面して立っていることがわかる。ふたりとも黒ずくめ。髪を編み込んだ佐東さんの後ろ姿は、ハンマースホイの有名な絵「背を向けた若い女性のいる室内」のよう。勅使川原さんは彫像のようにも見える。息を詰め微動だにしない時間が何分か。そして指先が、手が、腕が、そして体がスローモーションよりもなおゆっくりと動き始める。ダンサーはみんな早い動きより遅いほうが遙かに難しいというが、ここまでスローな動きができるようになるまで、この人たちはどれだけトレーニングを積み重ねてきたのだろう。

ふたりは互いの存在を全身が目になるくらい意識しつつも、実際に目を合わせることはない。だんだんに動きが大きくなり、それにつれて壁から離れ、やがてはライトがフロア中央を照らし、その中でひとりずつ踊り始める。後半になると激しいダンスが混じってくるが、約60分間の公演の間、ふたりは一瞬たりともふれ合うことなく、視線を交わすこともない。そして最後、光のなかでふたりがはじめて向かい合い、視線を交わすところで終わる。

アフタートークによると、音楽はバッハ「無伴奏ヴァイオリンソナタ」と、キース・ジャレットの「ブラックベリー・ウィンター」を交互に流していたのだそう。また、キーワードは「赦し」とのこと。でも、私にとっては「禁忌」と「渇望」だった。互いに想い合いながら、触れあうことはおろか、話すことも目を見ることさえも許されない、恋。そんなふうに見えたのだ。