「谷川俊太郎 展」

2018/03/16金 東京オペラシティ アートギャラリー

音楽:小山田圭吾コーネリアス
映像:中村勇吾(tha ltd.)
会場グラフィック:大島依提亜
会場構成:五十嵐瑠衣

谷川俊太郎の詩の世界を展覧会に?いったいどうやって?と気になってはいたものの、なかなかタイミングが合わず、終了まであと1週間というところでようやく拝見。週末はかなりの混雑、平日昼間もそこそこ混んでいるということなので、夜間延長を狙って金曜に。閉館まであと40分というぎりぎりタイミングで駆け込んだが、それでもそこそこに人はいた。

Gallery1:音と映像による新たな詩の体験
白いカーテンをくぐると、まず現れるのがこのコーナー。小山田圭吾コーネリアス)の音楽とインターフェイスデザイナー中村勇吾(tha ltd.)の映像による、谷川俊太郎の詩の空間。名作絵本『ことばあそびうた』で知られる「かっぱ」と「いるか」「ここ」という3つの詩を、谷川さんの声をまじえた音と映像で空間化。細長い空間の四方の壁に24のモニターと26のスピーカーが設置され、360度”動き回る”音と映像(といってもひらがな1文字や色、人の顔くらいのシンプルなもの)に包まれる。谷川さんの詩のリズムと小山田さんの音楽が絶妙。詩のプールに飛び込んで、たゆたう音と光、ときおり押し寄せることばの波に身を委ねているような体験だった。あまりに楽しくて、会場全体を一巡りした後また戻ってきて、結局ここで20分くらい過ごしてしまった。

Gallery2:自己紹介
日本で最も有名な詩人であり、詩を書くことで生計を立てていけるもしかたしたら唯一の詩人。そんな谷川さんの20行からなる詩「自己紹介」に沿って、20のテーマごとに谷川さんにまつわるものごとが展示されているのがこのコーナー。会場に入ると20行の詩を1行ごとに記した柱が見える。近づくとそのひとつひとつが大きな展示棚になっているのだ。一番最初に置かれているのが「私は背の低い禿頭の老人です」という柱。このサイドになんと、谷川さんの等身大のポートレート。左右両側に横向きの谷川さんがいる!本当に、小柄なんですね。友人と行ったら、ぜひ横に並んで写真を撮ってもらいたかった。

そのほか、棚には、谷川さんが影響を受けた音楽や「もの」、家族写真、大切な人たちから送られてきたはがき、ラジオのコレクション、鉄腕アトムバカボンのパパ、洗いざらしたTシャツなど暮らしの断片、知られざる仕事などなどが。そこに選りすぐりの詩作品が添えられている。谷川さんの脳内が視覚化された棚たちは、これ谷川家のリビングから持ってきたんですよ、と言われても頷けるような日常を感じさせる。次の空間への出口近くに谷川さんの著作を詰めた本棚が置かれ、「マザーグース」もそこに。もちろん全巻持ってたなあ。本当に懐かしい。

Gallery3:詩

展覧会のために新たに書き下ろされた「ではまた」と題された1篇の詩。それが壁に大きく書かれている。シンプルだが、言葉の連なりである詩の強さを実感させてくれる空間。

通路:年譜

その年に発表された作品とともに、谷川さんの私的なできごとが相当細部まで紹介されているらしく、みんなじっくり読みこんでいた。が、時間がない人用に、背後に通り抜け通路が設けられている。今回は時間がなかったのでその通路へ。。。

コリドール:3.3の質問
「3.3の質問」は、谷川さんが1986年に出版した『33の質問』(ノーマン・メイラーの「69の問答」にちなんで33の質問を作り、7人の知人に問いかけをしながら語り合う)がもとになっているそう。その現代版として、当初の33の質問から谷川さんが3問を選び、新たに「0.3の質問」を加えて「3.3の質問」となっている。「もし人を殺すとしたら、どんな手段を選びますか」などシンプルな質問を、最果タヒ春風亭一之輔など、各界で活躍する人々にぶつけ、その答えを作品としてモニターに展示。みなさん、答えが上手い!ここもじっくり見てしまった。

やさしいことばで深い内容、微妙なニュアンスを伝え尽くせる谷川俊太郎。それをアートに走りすぎず、かわいくかっこよく何より楽しく、音に乗せたり視覚化したりした開場構成の妙。幅広い世代が楽しめる展覧会だったと思う。