カンパニー・デラシネラ「分身」「椿姫」

2018/3/21水・祝 「分身」14:00開演 「椿姫」17:00開演 世田谷パブリックシアター

「分身」

演出:小野寺修二
テキスト:山口茜
照明:吉本有輝子
音響:池田野歩
衣装:駒井友美子(静岡県舞台芸術センター)
演出助手:藤田桃子

「分身」

原作:フョードル・ドストエフスキー「二重人格」より
出演

男:王下貴司、女:名児耶ゆり、もう一人の女:辻田暁、ペトリョーシカ:宮河愛一郎、見ている女:田中美甫、室長:伊吹卓光、同僚(椅子男):遠山悠介、同僚(立つ男):友野翔太、同僚(女):大樹桜、医者:宮崎吐夢、門番(男):植田崇幸、門番(女):浜田亜衣、もう一人の男:豊島勇士

「椿姫」

原作:アレクサンドル・デュマ・フィス「La Dame aux camélias」より

出演

マルグリット:崎山莉奈、アルマン:野坂弘、伯爵・私:斉藤悠、公爵・父:大庭裕介、なりたい女:増井友紀子、友人の女:仁科幸、運ぶ女:菅彩美、新しい女:牟田のどか、使者:宮原由紀夫

2015年~2017年までの3年間、小野寺修二のもとで若手育成を目指し舞台作品を創作してきた「白い劇場シリーズ」。2015年上演のシリーズ第1弾『分身』、2016年に上演し「CoRich舞台芸術まつり!2016春」のグランプリを受賞した第2弾『椿姫』の2作を、公募で選ばれた新たなメンバーを加えて再上演。いずれも初演を観ていないので進化の具合はわからないが、どちらも演出が面白く楽しめた。

2作とも、舞台装置らしいものは何もなく、ただ2、3卓のテーブルと人数分+αの椅子だけ。テーブルひとつで自宅の食卓、2つひっつけてオフィス、すべて並べれば晩餐会、縦に長く並べればファッションショーのランウェイに。衣装もごくシンプルで日常的。「分身」は全員がモノトーン+赤、「椿姫」は男性はスーツのアレンジ、女性は赤、青、緑などのワントーンのワンピースかツーピース。小道具もごくありふれたものをほんの少しだけ。「分身」はどのオフィスにもありそうなファイルやタイプライター、「椿姫」はグラスやシャンパンのボトルが出てくるぐらい。

「分身」はいわゆるドッペルゲンガーもの。人付き合いが苦手、上司や同僚と上手くいかず、恋する女にも振り向いてもらえない。そんな彼がある日、自分にそっくりな男に出会う。そっくりな男は彼と同姓同名を名乗り、彼のオフィスに現れ仕事を始める。そっくりな男は彼と正反対で要領がよく、上司や同僚とうまくやり、彼の生活をどんどん奪っていく。

台詞らしい台詞はほとんどなく、ときどき「あ」「固い」みたいな単語がもれるくらい。アクロバティックな動きと間だけで、男がだんだん孤立し、アイデンティティ崩壊に陥っていくさまを描き出していく。そんななか、名児耶ゆりさんのアカペラの歌がみごとで、印象鮮やか。主人公の男を演じた王下さんはいかにも真面目に見え、壊れていくさまが痛い。Noism出身、宮河愛一郎さんのダンスはさすが!女性で気になったのは粘りのきく動きが好みの、たぶん浜田さん。

デラシネラ版「椿姫」は名作でした!

「椿姫」は基本的なストーリーはそのままに、オペラやバレエでは情緒的に表現されるものをもっとむき出しにしたよう。マルグリットを演じた崎山莉奈さんは、華奢で小柄、きれいというよりかわいいタイプ。昔の事務員のようなブルーのセットアップという、ちょっとマルグリットとは思えない衣装で、最初はこの地味な人がマルグリット?と驚いたのだが、観ていくうちにどんどん美しさを増していった。ころころ気分を変えるマルグリット、それに振り回されるアルマンの必死さと愚かしさ、そんなアルマンにほだされていくマルグリットの美しく哀しい表情。アルマンの野坂弘は大きな目がくるくると動き、感情をいきいきと伝わってくる。

女たちは、ドゥミモンド(裏社交界)の華であったマルグリットに成り代わりたいと思っている。そして男たちは女たちを愛人にしたいと思っている。そんな男女のやりとりが、椅子を使って表現されるのが面白い。女が座ろうとする場所にすっと椅子を差し出す男。男にしなだれかかり、彼の座った椅子を抜き取る女(男はその間、中腰姿勢。すごい粘り!)「分身」とは違いこちらは台詞も多く、特にマルグリットの愛人である伯爵と私(作者、デュマ・フィス)役の斉藤さんは、サングラスをかけクールに構えつつしゃべりまくる。Noism出身宮原さんも不思議な存在感。マルグリットが持っていた本がオークションにかけられるシーンがあったけれど(原作ではアルマンが贈った「マノン・レスコー」の本)、ステージの流れでは彼女の日記という設定なのかな。ラスト、横たわったマルグリットの周囲に、真っ赤な椿の花が舞台にひとつずつ置かれていくシーンがとても美しく、心に残った。