新国立オペラ「ホフマン物語」

2018/03/10土 14:00開演 新国立劇場オペラパレス

作曲:ジャック・オッフェンバック

指揮:セバスティアン・ルラン

演出・美術・照明:フィリップ・アルロー

振付:上田遥

出演

ホフマン:ディミトリー・コルチャック

ニクラウス/ミューズ:レナ・ベルキナ

オランピア:安井陽子、アントニア:砂川涼子、ジュリエッタ:横山恵子

リンドルフ/コッペリウス/ミラクル/ダベルトゥット:トマス・コニエチュニー

アンドレ/コシェニーユ/フランツ/ピティキナッチョ:青地英幸

ルーテス/クレスペル:大久保光哉

ヘルマン:安藤玄人、ナタナエル:所谷直生、スパランツァーニ:晴雅彦、シュレーミル:森口賢二

アントニアの母の声/ステッラ:谷口睦美 ほか

合唱:新国立劇場合唱団

管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団

全5幕<フランス語上演/字幕付> 上演時間3時間40分(休憩2回含む)

アルローによるスタイリッシュな舞台。新国立では2003、2005年と、この演出で上演。今回が3回目となる。

冒頭、酒の精の合唱では、暗闇の中横たわったダンサーたちの、蛍光色の手袋と靴下が浮かび上がって動くのが面白い。全幕通してモブシーンではダンサーたちが大活躍。カンカンダンスなどダンサーとしてはもちろん、酒場のウエイターに、アントニアの葬式の参列者に、娼館の客にと、ダンサーならではの決めポーズで舞台を引き締めていた。クレジットによると、キミホ・ハルバートさんは振付助手としても参加。

1幕<プロローグ>から2幕<オランピア>への転換は回り舞台をうまく使い、酒場、劇場前、パーティ会場とその外と様々なシーンに。3幕<アントニア>では天井から大きな箱を舞台の上に被さるように配し、その中にヴァイオリンなど弦楽器を無数に吊して音楽家を表現。アントニアの死を悼む葬列が舞台下手奥より出てくるのだが、先頭にいたのはキミホさんだった。4幕<ジュリエッタ>では大階段を据え、その奥、上手側に巨大なゴンドラを。モブシーンでは思い切って大人数を舞台に上げ、盛り上げる。蛍光色をポイントに使った独特な色使いが印象的な舞台だった。

ホフマンのディミトリー・コルチャックは、1幕~3幕は抑えめだったが、4幕のジュリエッタとのやりとり後の「ああ、僕の魂は」で驚くほどパッショネイトな歌唱を聴かせてくれた。でも、好青年のせいか、冒頭のやさぐれたホフマンはちょっと似合わなかったような。2年前の「ウェルテル」の恋に苦しむ真摯な青年の印象が強すぎたかな。

ニクラウス/ミューズのレナ・ベルキナは、それなりに上手なのだが、かなりガタイがよく、ニクラウスにはちょっと辛かったかも。この役、初演はエリーナ・ガランチャだったんですね。それは見てみたかった。

ホフマンが恋する3人の女性で、目を瞠らせられたのはオランピアの安井陽子さん。可憐なコロラトゥーラ。自動人形という難しい役柄で、ねじが切れそうになり歌が途切れ途切れになるなど難しい「人形の歌」をみごとなコントロールでこなす。ホフマンとの美しい二重唱のあるアントニアは、3人の中ではプリマ格の役柄だと思うのだが、砂川さんはもともとの声質が美しく魅力的。だが、私が聴いた日はフレーズの最後の処理がちょっとぶっきらぼうに感じられて残念。ジュリエッタの横山さんは低音が素敵で、そして何より、この演出のジュリエッタは黒い眼帯をしているのがセクシー!

しかし、この公演の主役はコニエチュニー! 世界有数のワーグナー・バスバリトンの彼を、ちょっと軽めのこのオペラで聴くなんて、贅沢というか、ちょっと無駄遣いというか。。。いかにも悪徳政治家なリンドルフ、マッドなレンズ職人コッペリウス、妖術を使う医師ミラクル博士、魔力を使うダペルトゥット船長-主人公を陥れるという意味では、役の性根はメフィストフェレスなのだが-どれもらくらくと、楽しそうに演じ分けていた。カーテンコールでもお茶目で、本当にいい人らしい。

あと、オケがもう少し洒落ていたらなあ。せっかくのフレンチオペラなのに、鮮やかな色彩感やエスプリのようなものが感じられなかったのが残念。。。