OM-2「ハムレットマシーン」

2018/3/22木 19:30開演 日暮里SUNNY HALL

作:ハイナー・ミュラー

構成・演出:真壁茂夫

映像:兼古昭彦/町山葵

舞台監督:田中新一

舞台美術原案:若松久男

出演

マシーン1:田村亮太、マシーン2:畠山佳乃、ハムレットだった男1:ポチ、オフィーリア1:柴崎直子、ハムレトだった男2:佐々木敦、ホレイショー:金原知輝、暴動:笠松環、坂口奈々、相良ゆみ、髙橋あきら、高松章子、田中ぽっぽ、丹澤美緒、ふくおかかつひこ、山口ゆりあ、他、オフィーリア2(エレクトラ):鈴木瑛貴

100kgを超える俳優、佐々木敦の圧倒的存在感。吠える孤独、狂気...東京・大阪・ドイツ・ポーランド・韓国などの上演を経て、今再び東京へ上陸する!!!--と、HPのあおり文句。佐々木さんは以前、d-倉庫「異端×異端」での川村美紀子との二本立て公演で彼を初めて観た際、凄まじいまでの存在感に驚き、ある種怖いもの見たさでぎりぎりにチケットを購入。

日暮里SUNNY HALLを訪れたのは初めて。駅前のホテルの4階にあり、最大500名入るらしいのでそれなりの広さ。その座席をすべて取り払い、360度円形に2列新たに座席を配し、その外側に鉄骨でやぐらを組んで桟敷席を。サーカス小屋のような空間がそこにできていた。座席に囲まれたフロアの真ん中に巨大な白いボードがつり下げられ、入り口側からは向こう側が見えない。入り口側にウエディングドレスと白い椅子が置かれていたので、なんとなくこっちが正面かなと、桟敷席に陣取る(1列目だと刺激が強すぎるように思ったので)。しばらくすると「本日の公演は終了しました」のアナウンス。1列目に座っていた女性が2人、ぱらぱらと拍手をし、席を立って出て行く(その2人は出演者だったと思う)。演劇を解体するっていうこと?

やがて、私が観ている側には赤いドレスのオフィーリア1、こちらからは見えない側にはハムレットだった男1が現れ、ふたりはスマートフォンで会話を始める。「何してるの?」・・・「実は俺、ハムレットだったんだ」・・・「私はオフィーリアってわけ?」・・・当たり前の会話を交わす若い男女。フロアを取り巻く座席の背後にある通路(ちょうど桟敷席の下)で、ヘルメットを被った男が淡々と自転車(ロードバイク)を走らせる。白いボードはスクリーンとなり、ローレンス・オリヴィエ主演の映画「ハムレット」が映し出される。男は父の葬式の最中といいつつ、何か破壊的なことをしている様子(見えないので)、女がハンディカメラで周囲と自分を撮っているライブ映像が「ハムレット」の途中に割って入る。女はやがてカメラ口にくわえ、スクリーンには口中~食道が大写しに(このまま吐かれたりすると本当にイヤだなあ、と思ってみていたら、さすがにそこまではやりませんでした)。女は床に置かれたウエディングドレスに着替え、自殺をほのめかすようにナイフをもてあそぶ。仕切りのボードが動き始め、角度を変えながらじわじわと上がっていく。やがてボードは、鉄骨やライトが剥き出しになった天井を覆うように完全に水平となる。そこでようやく、フロアすべてが見渡せるように。

アングラ。だけど美しい舞台

男と女が退場したフロアに、テレビや冷蔵庫が運び込まれ、Tシャツと半パン姿の佐々木敦さんが登場。周囲を眺めたり、冷蔵庫からコーラを取り出して飲んだり、ポテトチップスの袋を手にしてテレビを見始めたり。。。静寂の中に、ポテチの袋を押しつぶすちりちりという音が響く。なぜかその音が、背筋が凍るほど怖ろしかった。床にこぼれたポテチのかけら。かけはじめた掃除機を放置し、彼はおもむろにバットを手に取り、鼻歌交じりに素振りをはじめる。彼の破壊的なパフォーマンスを目の当たりにしたことがあるので、来るゾ来るゾと身構えていると、渾身の力で机に叩きつけた!テレビを、冷蔵庫をなぎ倒し、荒れ狂う。大きな音にとても弱いので、予測してはいてもいちいちびくついてしまう。

一方、掃除機の排気により、床にわだかまっていたビニールが膨らみ始め、やがて2メートル四方くらいの透明な部屋ができあがった。佐々木さんはその中に潜り込み、中に置かれた赤ドレスを身に纏い、顔を白く塗りたくり、「ハムレットマシーン」の台詞を叫び始める。フロアに乱入、暴れ回る黒ずくめの人たち。銃撃音がし、彼らは斃れる。佐々木さんは消化器を股に挟み、噴射。暴れまくってビニールをはい出てきた彼の上に、自身のポートレートが雨のように降り注ぐ。土砂降りのように過剰な量で、しかも延々と。

佐々木さんが退場、「アメイジング・グレース」が流れ始める。黒ずくめの俳優やスタッフたちがキャンドルを手に出てきて、フロアに置いて去る。鎮魂の儀式のように。女(オフィーリア2。配役表にはエレクトラとも書かれている)がバケツを手に登場。中から何か取りだし、食べ始める。バケツに頭を突っ込んでは苦しそうに顔を上げる。水に拒まれたオフィーリアは溺死できない。バケツを持ち上げ水を飲んでは吐き出し、最後には頭から被って、呆然と立ち尽くす。愛する父を殺した母に復讐を誓うエレクトラは、ハムレットの鏡像。横たわっていた俳優たちが立ち上がってフロアを去り、公演の終了を告げるアナウンスが流れ観客が帰りはじめても、オフィーリアひとり、ただ荒れ放題のフロアを彷徨い続ける。

突然の轟音、生理的な嫌悪感をあおる演出もあったけれど、それを超えて残虐な美が感じられる舞台経験だった。