新国立劇場オペラ「愛の妙薬」

2018/3/14水 19:00開演 新国立劇場オペラハウス

作曲:ガエターノ・ドニゼッティ

指揮:フレデリック・シャスラン

演出:チェーザレ・リエヴィ

美術:ルイジ・ペーレゴ

衣裳:マリーナ・ルクサルド

出演:

アディーナ:ルクレツィア・ドレイ、ネモリーノ:サイミール・ピルグ、ベルコーレ:大沼徹、ドゥルカマーラ:レナート・ジローラミ、ジャンネッタ:吉原圭子

合唱:新国立劇場合唱団

管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団

全2幕<イタリア語上演、字幕付き>

上演時間約2時間35分(休憩含む)

パヴァロッティの後継者」と言われるライジングスター、サイミール・ピルグを聴きたくて、急遽行ってみた。

村一番の美女アディーナと、彼女に憧れる純朴なで不器用な青年ネモリーノ。彼女を振り向かせるため、ネモリーノはペテン師ドゥルカマーラから偽の惚れ薬を手に入れる(中身は単なる酒)。遺産が転がり込むことになり、いきなりモテはじめるネモリーノだが、彼はそれが惚れ薬のせいだと思い込み…。

という恋愛ドタバタ喜劇。新国立のこのプロダクションは2010年初演、2013年再演で、今回が3度目(私は初見)。ホールに入ると、まずアルファベットを全面に配した紗幕が下がっていて、開演前からうきうきした気持ちになる。幕が開くと地域や時代を感じさせないシンプルな舞台。光沢のある床に「ELISIR」の文字をかたどった舞台装置がどん!と置かれ、上手と下手の舞台袖から出ている幕(高さ9m!)は3冊の本をかたどり、背にはイタリア語とドイツ語、日本語で「トリスタンとイゾルデ」と書かれている。そう、ストーリーの冒頭、村で唯一字の読めるアディーナが「トリスタンとイゾルデ」をみんなに読み聞かせ、お話の中に登場する”愛の妙薬”がほしい、と合唱が囃す、それが全編を通じての演出のモチーフとなっている。だから歌手たちが上がる山台やプロンプターボックスも本の形だし、大道具スタッフもヨーロッパの図書館員の衣裳と凝りまくり。幕間にはドゥルカマーラのセクシーなアシスタントちゃんが客席で惚れ薬を売り歩く演出も(お札を振ってた人もいたけど、さすがに本当には販売せず。どうせならジュースくらいうればいいのに)。歌手の衣裳はポップでカラフル。全体におもちゃっぽいなと思っていたら、”レンチドール”というイタリアの人形にインスパイアされたデザインだそう。フェルトを使っているので照明を反射せず、カラフルな色が鮮やかに浮かび上がる。ただ、冒頭のアディーナの姿はちょっといただけない。プラチナブロンドでインテリ眼鏡なのだが、どうも白髪のおばあさあんに見えてしまう。村一番の美女のはずなのに...

色気のある役でサイミール・ピルグが見たい!

歌手陣は、なんといってもサイミール・ピルグ!前半、頼りないネモリーノはちょっと彼には合っていなかったけど、偽惚れ薬で酔っ払ったあたりから俄然ノリがよくなったように思う。パヴァロッティに教えを受け、アバドに抜擢されて世界の舞台に躍り出たアルメニア出身のリリック・テノール。「人知れぬ涙」はお見事でした。声も素敵だけどビジュアルもいいので、もっと色気のある役で彼を見たかった、というのが本音。「ホフマン物語」のディミトリー・コルチャックと入れ替えだったらよかったな。来シーズンの新国立では「ウェルテル」にキャスティングされていて、そちらはきっと似合うと思う(相手役が藤村実穂子さん。。。だいぶ大人ですね)。アディーナのルクレツィア・ドレイも高音がきれいでメリハリのある歌唱。ドゥルカマーラのレナート・ジローラミも達者で安定感。

以前、バイエルン国立歌劇場ダヴィット・ベッシュ演出のものを観たことがあるが、SFな演出が面白かった。戦争で荒廃した地球にドゥルカマーラが宇宙船で降り立つ、という、マッドマックス的な設定。識字率が低いのも説得力があったと思う。ビジュアルだけでなく、世界観のある演出のほうに、どうしても惹かれてしまうのです。