N響 第1881回 定期公演 Bプログラム

2018/02/22木 19:00開演 サントリーホール

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

ヴァイオリン:諏訪内晶子

ゲストコンサートマスター:ヴェスコ・エシュケナージ

<プログラム>
武満 徹/ノスタルジアアンドレイ・タルコフスキーの追憶に(1987) 
武満 徹/遠い呼び声の彼方へ!(1980)
ワーグナー/楽劇「ニーベルングの指環管弦楽曲

武満 徹とワーグナーというまったく雰囲気の違う作品を取り合わせた面白いプログラム。でも、どうも武満の面白さがわからず。。。何回聴けば開眼するのだろうか? 諏訪内さんのヴァイオリンは透明感があって綺麗だった。

パーヴォがN響ワーグナーを振るのは今回がはじめて。リングのハイライトだが、序夜「ラインの黄金」より始まらず、「ワルキューレ」の「ウォータンの別れと魔の炎の音楽」「ワルキューレの騎行」と進んできたのにびっくり。次に「ジークフリート」の「森のささやき」、「神々のたそがれ」の「ジークフリートの葬送行進曲」「夜明けとジークフリートのラインの旅」、最後に「ラインの黄金」の「ワルハラ城への神々の入城」という流れ。順番が違うと落ち着かないものですね。。。4日間で約15時間のあの壮大な楽劇を約1時間に凝縮すると、ぎゅうぎゅう詰め込まれたライトモチーフの連打が慌ただしく、、、音楽世界に浸りきれず、残念。

 

カラス・アパラタス 特別公演

2018/03/03土 20:00開演 カラス・アパラタス/B2ホール

出演・演出・照明:勅使川原三郎

出演:佐東利穂子

上演時間:約60分+アフタートーク

もしかすると半年ぶりくらいのカラス・アパラタスでの公演鑑賞。勅使川原さんの公演そのものは、昨年12月シアターカイで「イリュミナシオンランボーの瞬き-」を観て以来だが、やはりアパラタスで観るのは格別だと思う。荻窪駅からほど近いここは、1階ホワイエとB1のギャラリー、B2のスタジオ兼ホールすべてに勅使川原さんの思いがこもったスペース。いつもアロマが焚かれ、手入れが行き届いていて気持ちいい。開演30分前くらいに着いたら、週末のせいか珍しく行列ができていた。

アパラタスの魅力は闇の濃さ。通常の劇場とは違い、客入れのときから照明をできる限り落としてある。客電が完全に落ちると、息苦しくなるくらいの闇に包まれる。初めてこの闇を経験したときは、一瞬逃げ出したくなった(閉所恐怖症気味なので)。とろりとした闇の中、計算し尽くされたライティングとダンサーの動きが別世界を作り出す。

通常のアップデイトダンスは8日間の公演だが、今回は勅使川原さんの海外公演の間を縫っての短期間の帰国とあって、3月2日・3日の2日間のみの特別公演となった。

濃い闇の中、ステージ奥と上手の2辺のみに細く照明があてられていく。見える見えないのぎりぎりのほの暗さのうち、奥には佐東さん、上手には勅使川原さんがそれぞれ壁に面して立っていることがわかる。ふたりとも黒ずくめ。髪を編み込んだ佐東さんの後ろ姿は、ハンマースホイの有名な絵「背を向けた若い女性のいる室内」のよう。勅使川原さんは彫像のようにも見える。息を詰め微動だにしない時間が何分か。そして指先が、手が、腕が、そして体がスローモーションよりもなおゆっくりと動き始める。ダンサーはみんな早い動きより遅いほうが遙かに難しいというが、ここまでスローな動きができるようになるまで、この人たちはどれだけトレーニングを積み重ねてきたのだろう。

ふたりは互いの存在を全身が目になるくらい意識しつつも、実際に目を合わせることはない。だんだんに動きが大きくなり、それにつれて壁から離れ、やがてはライトがフロア中央を照らし、その中でひとりずつ踊り始める。後半になると激しいダンスが混じってくるが、約60分間の公演の間、ふたりは一瞬たりともふれ合うことなく、視線を交わすこともない。そして最後、光のなかでふたりがはじめて向かい合い、視線を交わすところで終わる。

アフタートークによると、音楽はバッハ「無伴奏ヴァイオリンソナタ」と、キース・ジャレットの「ブラックベリー・ウィンター」を交互に流していたのだそう。また、キーワードは「赦し」とのこと。でも、私にとっては「禁忌」と「渇望」だった。互いに想い合いながら、触れあうことはおろか、話すことも目を見ることさえも許されない、恋。そんなふうに見えたのだ。

パーヴォ・ヤルヴィ&N響『ウエスト・サイド・ストーリー』<演奏会形式>

パーヴォ・ヤルヴィ&N響『ウエスト・サイド・ストーリー』<演奏会形式>レナード・バーンスタイン生誕100周年記念

2018/03/04日 15:00開演 Bunkamuraオーチャードホール

バーンスタイン/ウエスト・サイド・ストーリー(演奏会形式)~シンフォニー・コンサート版(原語上演・字幕付き)~

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
マリア:ジュリア・ブロック、トニー:ライアン・シルヴァーマン、アニタ:アマンダ・リン・ボトムス、リフ:ティモシー・マクデヴィット、ベルナルド:ケリー・マークグラフ、アクション:ザカリー・ジェイムズ、A-ガール:アビゲイル・サントス・ヴィラロボス、ロザリア:竹下みず穂、フランシスカ:菊地美奈、コンスエーロ:田村由貴絵、ディーゼル:平山トオル、ベビー・ジョン:岡本泰寛、A-ラブ:柴山秀明
ジェッツ、シャークス:東京オペラシンガーズ
ガールズ:新国立劇場合唱団

演奏会特集サイトによると、父以外で唯一尊敬する指揮者がバーンスタインだというパーヴォ。タングルウッドで出合い、LAのマスタークラスで直接バーンスタインから指揮を学んだこともあるという(当時の写真がパンフレットに載っていた。髪が豊かなパーヴォは美青年だった!)。そんなパーヴォの指揮なら絶対いいはず!と先行発売初日にチケットを確保。といってもB席、オーチャードホール3階センターの3列目から遙か下のステージを見下ろしての鑑賞。そういえばミュージカルの舞台や映画は観たことがあったが、シンフォニー・コンサート版を聴くのははじめて。意外と上演時間が短いな、と思っていたら、なるほどこれは短いわ、というかいつまみっぷりだった。

オーケストラは、最初のうちは音楽のリズムに乗りきれない感があったものの、歌手が登場するころには取り戻し、歌と一緒に盛り上がっていく。クラシックや現代音楽以外のN響を聴くのは初めてだが、スローなナンバーはさすがに上手い。ただ、弾けるようなノリがあるかというと。。。

歌手陣、マリアのジュリア・ブロックはボストン響のオープニング「バーンスタイン・ガラ」に抜擢された有望株。ソプラノだが意外と地声が低いのに驚いた。トニーのライアン・シルヴァーマン、リフのティモシー・マクデヴィットはミュージカルでも活躍中。ストーリーを進めていくためには台詞回しが上手い必要があるので、この二人がキャスティングされたのかも。アニタのアマンダ・リン・ボトムスはすらりと背が高く、かわいいというよりかっこいい系。声も説得力のある強さ。そんなアニタとロザリアのかけあいが楽しい「アメリカ」では、竹下みず穂さんが好演。ひとりダンスっぽくステップを踏むところがちょっと恥ずかしそうに見えたけど(そして、ミュージカル版だとそれほど気にならないが、音楽と歌だけになると、手放しのアメリカ礼讃が気になってしまう)。「サムウェア」を歌うアビゲイル・サントス・ヴィラロボスも澄んだ声のトーンが魅力的だった。

ちょっと思ったのは、この演目なら、多少音を外そうが厚みがなかろうが、ノリが命なのかな。「マンボ!」なんて、エル・システマのコンサートでのアンコールが今まで聴いた中で一番だったかも。。。

 

東京シティ・バレエ団創立50周年記念公演 『白鳥の湖』〜大いなる愛の讃歌〜

2018/03/06火 18:30開演 東京文化会館大ホール

音楽:P.I.チャイコフスキー
演出・振付:石田種生(プティパ・イワノフ版による)
指揮:大野和士東京都交響楽団・音楽監督)
美術:藤田嗣治
芸術監督:安達悦子
演出(再演):金井利久
管弦楽東京都交響楽団

出演
オデット/オディール:ヤーナ・サレンコ(ベルリン国立バレエ団プリンシパル
ジークフリード王子:ディヌ・タマズラカル(ベルリン国立バレエ団プリンシパル
ロートバルト:李悦、道化:玉浦誠
パ・ド・トロワ:佐合萌香・飯塚絵莉・沖田貴士
三羽の白鳥:清水愛恵・平田沙織・植田穂乃香
四羽の白鳥:名越真夕・松本佳織・飯塚絵莉・新里茉利絵
ほか 東京シティ・バレエ団 

上演時間2時間30分(休憩20分含む)

当初、パリ・オペラ座バレエのミリアム・ウルドブラームがキャスティングされていたので、発売初日に勇んで取ったS席は、センターブロックの8列目という特等席。9列以降はサポーターズクラブ席だったそうなので、一般に入手できる中では最も条件のいいカテゴリーだったと思う。なのに、ミリアム降板、代わりにヤーナ・サレンコが出演。。。それなら、大野さんの指揮と都響の演奏を堪能するため、3階最前列あたりを狙ったのに、と後悔しつつ文化会館へ。

結論から言うと、面白かった! とにかく音楽が素晴らしい!

大野さんの指揮はメリハリがきいてテンポがよく、ヤーナ・サレンコでさえ音楽に遅れないよう真剣に踊っているな、という印象。シティ・バレエのダンサーたちは大変だったろうけれど、大野さんのテンポに食らいついていた。その努力のせいか、音楽がダンサーたちをひとつ上の世界に連れて行ってくれている感じがした。都響の演奏も素晴らしく、弦は通常の人数の倍、ピットに入っているんじゃないか、というくらい豊かな響き。管も細かな音の動きを正確に、気持ちよく伝えてくれ、あ、ここにはこんな音があったのか、と気付かされること度々。石田版では4幕に、バランシンの「チャイコフスキー・パドドゥ」で使われている曲を挿入し、オデットと王子に踊らせているのだが、大野×都響でこの音楽を聴けるというレアな経験もさせてもらえた。オケを聴くには前すぎる8列目も、大野さんの後ろ頭と指揮棒、雄弁な左手がよく見えて楽しい。ときに、舞台よりも大野さんのほうを見てしまうくらい。またぜひ、このクオリティの演奏でバレエが観たい。来シーズンより大野さんが新国立オペラの芸術監督に就任なので、新国立バレエでの実現を期待!

今回の目玉はもうひとつ、藤田嗣治が手がけた舞台美術の模写を元にしたセット。パリ留学時代にバレエもよく観ていた藤田は、「白鳥の湖」の日本における全幕初演(昭和21年=1946年、帝国劇場)で、美術を手がけている。藤田の原画そのものは散逸したが、演出家の故・佐野勝也氏が、当時の美術スタッフによる模写を発見。それがシティ・バレエの芸術監督・安達悦子さんの目にとまったそう。

パリでキュビズムシュールレアリスムなど最先端の美術に触れていた藤田だが、今回の白鳥の舞台美術はオーソドックス。1幕目、王子の誕生日を皆で祝うシーンのバックに崩れた遺跡のような建物が描かれていたり、3幕の舞踏会でも下手にそそり立つような階段を描き不安感をあおったりと、ロマン主義的かな。4幕、ロットバルトが滅び白鳥たちが人間の姿に戻るエンディング、谷の奥から朝日が昇るのだが、紗幕を上手く使って朝靄の雰囲気を出していた。

ダンサーでは、ヤーナ・サレンコのプロ魂を実感。彼女の全幕を観るのはこれが初めてだったかも(ガラ公演では常連さんなのに)。テクニックのある人だとは思っていたが、体力もあった。白鳥は情緒に欠けるように感じられたが(まあ、曲のテンポも速かったし)、黒鳥はめざましかった。グランフェッテはダブルとトリプルを最後まで入れ、しかも音符の細かさに合わせてダブルとトリプルを使い分けていたように見えた。ディヌ・タマズラカルは庶民的で、気の優しい王子様。舞踏会でオディールと踊るところでは、もう彼女のことが好きすぎて乙女のような表情を浮かべていたのが印象的。ここまで感情を顕わにする王子って珍しいかも。踊りそのものは正確なテクニックとやわらかな着地で、優秀なクラシックダンサー。シティ・バレエ団員では、パ・ド・トロワとナポリを踊った佐合さんが目立って上手かったように思う。形もきれいだし、何より軽やか。

石田版の振付で一番印象に残ったのが、4幕の白鳥たちの使い方。フォーメーションも工夫があって面白いのだが、なんというか、強い! みんなで一斉攻撃すれば、ロットバルトも倒せちゃうんじゃないの?というくらい。王子はあまり戦わず(剣も持ってないし)、最後の最後でロットバルトの片羽根をもいで、エンド、なのだが、そんなとってつけたような終わり方ではなく、白鳥たちがオデットと王子を守ってロットバルトを倒すほうがよっぽど説得力がある気が。。。

大野さんと都響が出演することになったのも、安達さんと大野さんが小学校の同級生だったからという。安達さんのプロデュース力が光る公演だった。

 

蜷川幸雄三回忌追悼公演『ムサシ』

2018/03/06水 18:30開演 彩の国さいたま芸術劇場大ホール

作:井上ひさし吉川英治宮本武蔵」より)
演出:蜷川幸雄
音楽:宮川彬良
美術:中越
照明:勝柴次朗
衣裳:小峰リリー 
殺陣:國井正廣・栗原直樹
振付:広崎うらん・花柳寿楽
能指導:本田芳樹 狂言指導:野村萬斎

出演
宮本武蔵藤原竜也佐々木小次郎溝端淳平、筆屋乙女:鈴木 杏、沢庵宗彭六平直政柳生宗矩吉田鋼太郎、木屋まい:白石加代子、平心:大石継太、忠助:塚本幸男、浅川甚兵衛:飯田邦博、浅川官兵衛:堀 文明、只野有膳:井面猛志

初演は2009年3月、さいたま芸術劇場にて。その後、ロンドン、NY、シンガポール、ソウルと海外公演を重ね、久々に初演の劇場に戻ってきた。2016年に亡くなった蜷川幸雄さんの三回忌追悼公演と銘打たれている。

巌流島の決闘から6年、鎌倉の小さな禅寺の寺開きに集った沢庵宗彭柳生宗矩、木屋まい、筆屋乙女、宮本武蔵。そこに佐々木小次郎が現れ、武蔵に3日後の果たし合いを求めるが--

舞台は巌流島の決闘のシーンから始まる。奥は海。上手に真っ赤に輝く夕陽。それを背にした武蔵が小次郎を一撃で倒し、立ち会いの細川藩の者に「お手当を!」と叫ぶところで暗転。舞台奥、暗闇の中から何人もの黒衣によって竹が押し出されてくる。7~8mはあろうかという竹を数本ずつ横一列に立てた台車のようなものを黒衣が動かすのだが、奥から舞台面にまっすぐ動いてきたかと思うと左右に分かれ、また奥に戻っていったりと様々に動き、観客側が山深くへ分け入っていくような錯覚を起こさせる。やがて竹林の奥から寺の建物が現れ、武蔵たちが座禅を組んでいる、という趣向。寺は能舞台かと思わせるようなシンプルなつくり。そこで沢庵、宗矩、まい、乙女、武蔵が座禅を組んでいる。かなり舞台面近くにセットが置かれているので、俳優たちの表情がよく見える。舞台袖の壁にはシーン名と日にち、時間、場所が示され、始めて観る人にも時系列がわかりやすくなっている。

武蔵に果たし状を突きつけ、武蔵が逃げないよう、ずるをしないよう見張るという小次郎。殺し合いを止めようとする沢庵、宗矩、まい、乙女。そこに乙女の父の敵が現れ、乙女は敵討ちを決意。武蔵に必殺の秘策を求める。それが功を奏し、乙女は敵に大怪我を負わせるが、その悲惨さに敵を討つという考えを放棄する。そこに小次郎の出生の秘密が絡み、最後は武蔵、小次郎以外の、そこに居合わせた全員が現世に思いを残して死んだ人々の幽霊だったというオチ。自らの無駄な死を悔い、武蔵と小次郎の決闘を止め、ふたりが命を大切にしてくれれば自分たちも成仏できると説く。朝、決闘を放棄したふたりのところに、ホンモノの沢庵、宗矩らが登場し幕府への士官を薦めるが、ふたりは制止を振り切り別々の道を去って行く。2本の通路がちょうど両花道みたいで面白かった。

役者で目立ったのは、予想通り白石加代子さん。もうオンステージ!表情、台詞回し、身のこなしすべてが一段上に感じられる。藤原竜也さんはちょっと声がくぐもっていたような。台詞がところどころ聞き取れなかった。この役を初演からずっとやっているので、きっとそういう役作りなのかな。そして吉田鋼太郎柳生宗矩のはずなのになんだか貫禄がないなー、と思っていたら、そうですか、別人の幽霊だったのですか。そして最後、ホンモノの柳生宗矩として登場してきたときはさすがの貫禄で、その変化が役者としての力を実感させてくれた。

作品を通じてのテーマは「恨みの連鎖を断つ」「殺すな、殺されるな」「生きろ」。2009年初演時より、難民、格差社会など問題が深刻化しているいま、このテーマが身につまされる。

宝塚雪組『ひかりふる路』『SUPER VOYAGER!』

ひかりふる路(みち)〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』
作・演出:生田 大和
作曲:フランク・ワイルドホーン
振付:御織ゆみ乃、桜木涼介
マクシミリアン・ロベスピエールフランス革命における中心人物の一人】:望海 風斗
マリー=アンヌ【ある目的のためマクシミリアンに近づく】:真彩 希帆
ジョルジュ・ジャック・ダントン【フランス共和国司法大臣であり、マクシミリアンの友人】:彩風 咲奈
タレーラン・ペリゴール【フランスの政治家】:夏美 よう 陽向 春輝
カミーユ・デムーラン【革命家でありジャーナリスト。マクシミリアンの友人】:沙央 くらま
マノン・ロラン夫人【ロランの妻。通称「ジロンド派の女王」】:彩凪 翔
ルイ・アントワーヌ・ド・サン=ジュストジャコバン派議員】:朝美 絢

フランス革命の中心人物であり、理想を希求するあまり”恐怖政治”に陥ってしまった革命家マクシミリアン・ロベスピエールを主人公にした歴史ミュージカル。仲間たちとの絆と裏切り、運命的なロマンス・・・雪組新トップコンビ望海風斗と真彩希帆の大劇場お披露目公演。これはもう、苦悩する望海様をみるためだけの演目。トップ二人が突出して歌が上手いのにびっくり。そして、サンジュストを演じた朝美さんの、マリー=アンヌを邪魔者として睨み付ける目演技がスゴかった。目が大きく、華やかな顔立ちの朝美さん、美貌のサンジュストにぴったりでした。ロラン夫人の彩凪さんは男役。男役が演じる女性って、存在感があってけっこう好きなんです。

レヴュー・スペクタキュラー
『SUPER VOYAGER!』
-希望の海へ-
作・演出:野口 幸作
作曲・編曲:青木朝子、手島恭子
振付:羽山紀代美、麻咲梨乃、ANJU、ASUKA-TAKAHASHI、三井聡
「VOYAGER(ヴォイジャー/航海者)」をテーマに、望海風斗のトップスター就任と新生雪組の「船出」を祝福するレヴュー。豪華客船の出航をイメージした躍動感溢れるプロローグに始まり、「望(HOPE)」「海(OCEAN)」「風(WIND)」「斗(BIG DIPPER)」と新トップスターの名前にまつわる場面を中心に、未来への希望に満ちた場面の数々で構成。これも望海様の歌のうまさ、男役としての魅力全開。バレエっぽい振付も多く、それをみんな上手にこなしていた。宝塚音楽学校に入るには、バレエは基本中の基本ですから、ね。ただ、宝塚と言えば、な黒燕尾が出てこなかったのは、ちょっと残念。。。

AKRAM KHAN「UNTIL THE LIONS」

AKRAM KHAN:UNTIL THE LIONS

Duration: ca. 60 Min.

director / choreographer: Akram Khan

narration concept / scenario / text: Karthika Naïr

visual design: Tim Yip

lighting design: Michael Hulls

soundtrack composed by: Vincenzo Lamagna in Kollaboration mit Sohini Alam, David Azura, Yaron Engler, Akram Khan, Joy Alpuerto Ritter

dramaturgy: Ruth Little

dancer: Ching-Ying Chien, Joy Alpuerto Ritter, Rianto

musicians: Sohini Alam, Joseph Ashwin, David Azurza, Yaron Engler

何を見ても外れのないアクラム・カーン。これは第17回英国舞踊批評家協会賞を受賞した話題作。インド舞踊のカタックとコンテンポラリーダンスが見事に融合している。

ストーリーは古代インドの叙事詩マハーバーラタ」にあるビーシュマの死をモチーフにしたKarthika Naïrという詩人の著作「Until the Lions: Echoes from the Mahabharata」にインスパイアされているそう。

ざっくり検索した感じだと、マハーバーラタでは、下記のようになっているらしい。

独身の誓いを立てたビーシュマが異母弟のために3人の王女を略奪してくる。そのひとり、アムバーはビーシュマに婚約を要求したが拒絶され、何度生まれ変わろうとも復讐することを誓う。男女両方の性を持つ者が現れたときに武器を捨てるというビーシュマ。そこに男に生まれ変わったアムバーが現れ、ビーシュマは武器を手放し斃される。

すり鉢状になったカンプナーゲルの大ホールの、ほぼてっぺん近くから見下ろすと、そこには大きな切り株を模した舞台が。周囲に何カ所か竹のような棒の束が立っている。ぽつんと何かが置かれているなとオペラグラスを覗いてみたら、デスマスクのような仮面だった。

冒頭、奥からひとりのダンサー(Joy Alpuerto Ritter)が舞台によじ登ってきて、四つ足の獣のようにすさまじいスピードで走り回る。女性とも男性ともつかないしなやかな体つき(後でHPを見て女性と知りました)。そして上手から男(インドネシア出身のRianto)が女(台湾出身のChing-Ying Chien)をおぶって(だったと思う)走り込んでくる。このふたりがビーシュマとアムバーなのだ。ダンサー3人ともに、驚異的な身体能力で、パワフルなダンスが繰り広げられる。2017年秋に観たENBの「ジゼル」を思わせる動きが、強靱で粘り強い、鍛え抜かれたダンサーたちによって繰り広げられる。ENBのダンサーたちもコンテが上手いな、と思っていたが、本家はレベルが違った。ミュージシャンもたった4人なのだが、体の中から揺さぶられるようなカタックのリズムが観客全体にダンスを伝播させていくようだった。

濃密な舞台で60分があっという間。ダンスが進むにつれ舞台そのものに亀裂が生じ、最後、ビーシュマの死に際し、まるで火口のように下から光が射す。この物語が普遍的であり神話的であることの象徴なのか。最後にまわりから棒が舞台に放り込まれるのは鎮魂の儀式なのか? リーフレットには”ジェンダーセクシュアリティの変化というテーマを探求する”とあったが、そのあたりはちょっとわからず。。。最初に出てきたダンサーが、男性でもなく女性でもなく、もしかしたら人間でもない、何か力そのもの、みたいな感じなのかな。そういえば日本でRiantoのダンスをを観たことがあったことに、後で気がついた。北村明子さんの「To Belong」に出演していたのだ。私が観たのは2012年のワーク・イン・プログレス1だけなのだが。