地域の物語2018 『生と性をめぐるささやかな冒険』発表会

2018/03/18日 15:00開演 シアタートラム

間口が広く奥行きの狭いシアタートラム。舞台面と同じ高さに置かれた客席の前2列はすべて空いてる。舞台上手と下手の壁にそれぞれ一列、椅子が置かれている。客入れの音楽が絞られ舞台奥から出演者たちがわらわらと出てくると、みんな前2列の客席に、私たちに背を向けて座った。私たちも見ているあなたたちと同じ、ごく普通の市民なんだよ、と、その背中が言っているような気がする。進行役として演劇家の柏木陽さんが登場し、舞台が始まる。

『地域の物語』は、公募によって集まった人々が、ワークショップを通じて作品をつくりあげるプロジェクト。今年度は昨年度に続き「生と性をめぐるささやかな冒険」をテーマに、「セックスをめぐる冒険」部、「男と子育てをめぐる冒険」部、「女らしさ男らしさをめぐる冒険」部と3部活を設定し、約30名が参加。12月から3月に開かれた全17回のワークショップを経て、最終日3月18日、11時~/15時~の2回、演劇の形での発表となった。昨年度も演劇の形で発表され、最後は号泣だったとの話を聞き、初めて観にいくことに。ちなみに無料。要予約とあったが、当日券でも入れた模様。ただし、私が観た15時の回は立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。

ファシリテーターとして、演劇家の柏木陽さん、俳優・劇作家・演出家の関根信一さん、演劇プロジェクトの企画・推進などを中心に活動する花崎攝さん、振付家・ダンサーの山田珠美さん、俳優の山本雅幸さんが、ワークショップから発表会まで参加。発表会の総合司会(?)は柏木さん。彼が出す質問に出演者たちが答えるYES/NOゲームをきっかけに舞台は進行していく。「年収が500万以上ある」「パートナーとセックスについて話し合ったことがある」「生まれながらの性別に違和感がある」などなど。冒頭の「YES/NOゲーム1」から「カーテンコール」まで全28のシーンで舞台は構成されている。

参加する人、観る側の人

20代から60代とおぼしき人まで、出演者の年代は幅広い。おそらく、職業もさまざま。想像していたよりずっと声も通り、みんな、きちんと演技している。ただ、そこには、ごく普通の会社員という人がいないようだった。

ごく普通の会社員、そう書きながら、それってどんな存在なんだろうと、ふと思う。

定時に会社に行って働き、職場の仲間や家族と上手くつきあい、、、スーパーでなくてもいいので、それなりに社会に適応している人たち。いまの環境に多少の違和感や居心地の悪さはあっても、やり過ごしてやっていける人たち。発表会出演者にも、もちろんそんな普通の会社員がいて、でも普段は目をつむっている違和感に向き合うためにこのワークショップに参加したのだろうけれど、こちらが観客席に座った時点で、舞台にいる人たちをある意味”特別”な人と見てしまうのかもしれない。特別だからあちら側に立てるんだ、と。

もうひとつ、思ったこと。無料って難しい。。。

今回の発表会出演者には個人的な知り合いひとりもなく、本当にふらりと観にいっただけ。フライヤーやWebで公演を知り「面白そう」と観にいくのと同じはずなのに、決定的に違うのは「無料」であったこと。観るという体験に対して対価が派生する。料金に十分に値する、もしくは料金が安く感じられれば、観る側にとって大満足。面白くなかった、この料金高すぎない?という場合ももちろんあるが、料金が介在すれば、舞台を観る→評価するというスタンスが生まれる。それが私にとって舞台体験の基本なので、無料という違和感に上手く対処できなかった。プロの舞台人のステージなら好き/苦手、面白かった/いまいち、という割り切りができるのだけど、今回のような公演だと、もちろんそんなに面白いわけではなく。。。すごく笑ったり拍手したりしていた人たちがいたけれど、私はそれもできず、もやっと困ったまま客席にいただけ。

この回は終演後アフタートークがあったのだが、次の予定のため参加できず。アフタートークを聴き、出演者たちの生の声に触れれば、本編に対する感想もまた変わったかもしれない。こういうプロジェクトを観にいくときの、自分なりの心構えをつくりあげたいものだ。。。