東京春祭 歌曲シリーズ vol.23 クラウス・フロリアン・フォークト (テノール) I
2018/3/26月 19:00開演 東京文化会館 小ホール
東京春祭 歌曲シリーズ vol.23
クラウス・フロリアン・フォークト (テノール) I
テノール:クラウス・フロリアン・フォークト
ピアノ:ルパート・バーレイ
※ 当初、出演予定だったピアノのイェンドリック・シュプリンガーは、右手負傷により降板。フォークトの推薦によりルパート・バーレイがハンブルクより急遽来日。
ハイドン:
すこぶる平凡な話
満足
どんな冷たい美人でも
人生は夢
乙女の問いへの答え
小さな家
ブラームス:
目覚めよ、美しい恋人
昔の恋 op.72-1
谷の底では
月が明るく輝こうとしないなら
甲斐なきセレナーデ op.84-4
マーラー:《さすらう若人の歌》
第1曲 彼女の婚礼の日は
第2曲 朝の野辺を歩けば
第3曲 私は燃えるような短剣をもって
第4曲 二つの青い目が
R. シュトラウス:
ひそかな誘い op.27-3
憩え、わが心 op.27-1
献呈 op.10-1
明日には! op.27-4
ツェチーリエ op.27-2
アンコール
R.シュトラウス セレナーデ
ブラームス 日曜の朝
ローエングリン、タンホイザー、ワルキューレとワーグナー・オペラでは何度か聴いているが、フォークトの歌曲を聴くのは実は今回がはじめて。2夜にわたるリサイタルの第1夜は「愛」をテーマにしたリーダーアーベント集。もちろん完売。ホールはフォークトファンの女性でいっぱい。
フォークトさんの歌声は本当に独特。澄んでいるのに強靱。まっすぐに音の伸びる軌跡が見えるような気がする。発音も明快で、ドイツ語がわからない私でさえ単語が聞き取れ、なんとなく意味がわかるような気になってしまう。聖なる白鳥の騎士ローエングリンがはまり役だった彼も、昨年聴いたバイエルン歌劇場「タンホイザー」タイトルロール、NHK音楽祭「ワルキューレ」ジークムント、いずれもみごとに歌いこなし、歌の表現力はもちろん、オペラ歌手としての演技力も着実にレベルアップ。今回の歌曲でも、その演技力が発揮され、彼の表情やちょっとした身振りを見ているだけで楽しかった。
最初はハイドンで喉ならし(?)。なかなか聴く機会のないハイドンの歌曲。無理のない音運び、ピアノも素朴で美しい。フォークトさんも軽やかに歌っていた。ブラームスではオペラ歌手としてのドラマ性が顔を出し、「甲斐なきセレナーデ」では家に入れてと口説く男とそれをいなす女の子の、コミカルなやりとりが表情豊かで、思わず吹き出しそうになるくらい。掛け合いのテンポのよさは、フォークトさんのリズムの取り方によるところ大なのかも。
後半はマーラー「さすらう若人の歌」から。恋しい女性が他に嫁いでいく悲しみ、それでも焦がれる激情、そしてラスト、彼女と、そしてこの世界そのものに別れを告げる。フォークトさん、のっけからドラマティックで、声量も最高レベル。波動が体に伝わってくるくらいの強さ。でも、荒れない。弱音からフォルテッシモまで、みごとにコントロールされていた。
アンコール前では英語で挨拶。最後に、この公演のためだけに急遽ハンブルクから来てくれたバーレイさんへの謝辞を。フォークトさん、本当にいい人なんですね。